こちらの建物なのです。これはマリアン・ノースというアーティストの作品を展示するためだけに作られたもので、それもマリアン・ノース自身がお金を出して作ったもので、自分で建物の設計をして、中のデザインも自分でして、自分で絵の展示もして、さらに館内のデコレーションまで自分でしたという徹底した独自の美術館です。
アーティストと言えば貧乏、貧乏と言えばアーティスト、というのが世界基準だと思っていたら、必ずしもそうとは言えない人もいるのですね。それではさっそく中に入れていただきましょう。
内部は撮影できないので、写真はどれもキューガーデンのサイトなどから借りてきました。中に入ると、ど~ん、という感じで無数のアートが待ち構えています。圧倒的ですね。二階があるように見えますが、立ち入りはできません。ベンチがあるので、訪問者はそこに座って呆然と眺める、という仕組みです。
このマリアン・ノースという女性はビクトリア時代の人で、その頃の女性の社会的な枠組みは気持ち良いくらいすっかり無視して、独身のまま世界中を旅して回って植物や動物や風景や人々の暮らしなどをたくさんの油絵に残しました。
そして、彼女のスタイルというのは画材を抱えて現地まで行ってその場で描くというものです。さすがにガイドをしてくれたり荷物を持ってくれたりする現地の人は雇っていたようですが、それでも女性が旅行者一人でジャングルや険しい山に分け入り、怪我や病気をしつつも描き続けたというのは恐るべき執念です。
そして作品を全部こうしてキューガーデンに寄付して、地域ごとに分類して、どこにどの絵をどの順番で掛けるというのも自分で決めて、、、
しかもこういう内装のイラストまで自分で描いたというのだから驚きです。
こちらがこんな素晴らしい業績を残したマリアン・ノース。当時のイギリスのトップレベルの有力者の娘だったので、お金もコネもいくらでもあったからできたことではあります。でも、同じ条件の人は他にもたくさんいるので、彼女は与えられた財産を最大限に有効活用したのだなと思います。そしてもちろん才能があって、何よりも描き続ける好奇心と努力と情熱があったのです。本当にものすごい人だなと思います。
もしも、という話ではありますが、私に彼女ほどの無尽蔵の財産があれば、どんな人生を送ったでしょうか。ガイドとポーターを雇ってエベレストやアマゾンへ、ということを思いつくでしょうか。う~ん、寒いのも刺す虫がいるのも嫌だなあ。骨折もマラリアも嫌だし、、、と考えると、まあ、やはり才能はお金で(伸ばせるものではあっても)買えるものではない、ということでしょうね。
マリアン・ノースの作品。
これもそうですが、モデルにあくまで忠実に、そしてとても素直でいきいきとした色使いや筆遣いが特徴的です。
日本の風景もあります。彼女の筆致は正式な絵画の訓練を受けた人のものではありませんが、つたなささえ感じられるけれど絶対に手を抜かない、丁寧に一生懸命に描いた姿勢がひしひしと伝わってきて、ほんとうにすばらしいと思います。緻密に、正直に、そのままに写し取るその姿を私も見習いたいものです。
この展示は古いもので作品にも傷みが出てきていたため、近年になって数年がかりで修復され、新しくオープンしてそう長くありません。その修復作業の様子も執念を感じさせるような素晴らしいものです。今回の旅行ではこの貴重な展示を見ることができて本当によかったです。
クリームティーのためだけにロンドンまで行ったというのはやはり正しくなく、クリームティーとマリアン・ノースのためだけに行った、というのが正解です。他のは全部おまけ、と言い切ってもあまり誇張ではないほど、それほどの迫力のある展示でした。機会があれば、みなさまもぜひともお出かけください。絶対にお勧めです。
これは値段も見ずにほいほいと買ってしまった本とDVD。シブチンの私にしては実に珍しいことです。
残念ながらDVDはイギリス国内向けで規格が違うとかで、うちの機械では再生することができませんでした。今時のご時勢でまだそんなことってあるのね、と思ってちょっとびっくりしましたが、それなら、と思ってYouTubeで探してみたら、うん、ちゃんとありましたね、やっぱり。。。DVDを買ったのはキューガーデンへの寄付だと思うことにしましょう。
長いビデオで英語ばっかりですが、ぜひともご覧ください。
ギフトショップはもちろんお洒落で値段の高いものが山ほどありますが、無視して通り抜けます。
よかった、よかった、と満足して帰ります。帰りの10億円住宅の一軒には、それは見事な藤が咲いていました。やっぱりここらへんには腕の良い庭師が揃っていることでしょう。
夜はホテルの近くを歩いて見つけたトルコ料理のお店に入りました。
サーバーはほぼ全員ロシア人ではなかろうか、という感じで、お客も4人に1人くらいはロシア人のような気がします。したがって愛想はそれほど良くありませんが、お料理のほうは最高でした。グヴァッチェという名前の料理があったので「これは何ですか?」と聞いてみたら、冷たい顔をしたロシア人の若い女性サーバーが眉をしかめて「それは料理の名前です」と答えてくれました。
まあよかろう、と思ってその謎の料理を注文したところ、こんなとんでもない帽子を被って登場したのは、、、
魚介類と野菜の煮込みでした。横にソバの実のピラフのようなのが添えられています。そして、この煮込みのソースが絶品でした。スパイスが効いて風味豊かだけど辛すぎず、塩味も程よくて、今回のイギリス旅行で食べたうちで一番おいしいものでした。
某氏が頼んだチキンの料理も、カリカリに焼いてあるのにとてもしっとりしていて、中華料理でよくあるような気持ち悪い感じの水っぽさがありません。添えてあるジャスミンライスも、一見普通の白ご飯なのになぜかとてもおいしかったのです。
私たちの節約旅行には珍しく、デザートをオーダーしました。ドライフルーツのアプリコットにクリームチーズのようなのを詰めたものです。とてもおいしいのですが、二人でこれだけで十分です。
お勘定のときにはおまけでターキッシュディライトが出てきました。これはごく柔らかいヌガーのような、固めの寒天ゼリーのようなお菓子で、あまりおいしいと思ったことはなかったのですが、ここのは甘すぎないし香りも良くておいしかったです。
気になるお値段のほうは、二人で1品ずつ、デザートは二人で1つ、某氏はビール、私は水(もちろん有料)を頼んで、全部でおよそ1万円でした。安くはないけど、ロンドンの物価でこの味だったらむしろお買い得レベルかもしれない、と思います。
それではそろそろ引き上げましょう。映画の撮影ということで、予告通り道が封鎖されていました。
撮影用のトラック。歩行者は通れます。