都市計画ワークショップ 2
2014年 09月 24日
会場には必ず軽食が用意されます。腹が減っては戦ができぬ、というのもありますが、同じ釜の飯を食いつついがみ合うこともしづらい、という心理を利用したものでもあります。
席が半分くらい埋まったところでワークショップが始まりました。時刻は4時半くらいです。
テレビカメラも入っています。なお、登録した参加者は撮影と肖像使用に関する同意書に署名しますが、それは嫌だ、という場合でも参加は可能です。その場合は「撮影お断り」と書いた印を胸元につけておきます。
マイクを持って意見を述べる参加者。一人で何度でも手を挙げてマイクを離さない人もいるので大変です。
参加者が発言したアイディアを紙に書いていきます。
最後にはこんなにぎっしりになりました。
アイディアをその性質に応じて分類して、こんなふうにタイトルにします。今回はアーティストの人数に合わせて8つのテーマに分けました。参加者はその中から自分が一番興味のあるテーマを選んでグループを作ります。私は「レクレーション」というテーマを掲げるグループの書記になりました。普通はレクレーションというテーマに集う人はけっこうたくさんいるのですが。。。
なんと、今回はたったの一人でした。
他のグループは10人くらいいたりするので、今回の参加者は病院の敷地を単なる公園以上のものとして活用する意志が強いということでしょう。特に大勢集まっていたのは病院施設の存続を前提としたテーマのものと、コミュニティー活動に関するものでした。
人懐っこいおじいさんが「私はサイクリングをしていて、その辺にいる人たちに手を振ってて、子供たちとも仲良くなって、、、」などと語る様子を絵にしました。
最後にこういうマーカーを使って、、、
色を塗ります。最初に私がかなり適当にちょっと塗って、「ご一緒にいかがですか?」と声をかけます。おじいさんは嬉しそうに「それじゃあ」と言っていそいそと一緒に塗ってくれました。あとはもう、ほったらかしても大丈夫です。「こんなに楽しいのは久しぶりだ」と言いながら、にこにこして熱心に塗って、、、
できあがり!楽しいこんな様子が実現するといいですね。
そうこうするうちに、次のお客様がいらっしゃいました。実は、この方は他のグループにいらしたのですが、あまりに意見が強くて他の人たちを黙らせてしまうので、体よく追い出されてしまったのです。ワークショップには必ず一人監視係がいて、こういうことが起こってないかを巡回して見張っています。困った人がいると、「あなたには特別に専任のアーティストをつけてあげましょう」と言って引き離します。そのためにアーティストとしてのスキルのある予備のスタッフを用意しておくのですが、今日はテーマが多くて人数も多くてアーティストが全員手がふさがっていたので、閑古鳥の鳴いていた私たちのグループに白羽の矢が立ったわけです。
彼女はペットに関して並々ならぬ情熱があり、意見もペットに関するものばかりでした。今回のワークショップで意見を述べるのをものすごく楽しみにしていたので、あらかじめ20ページ以上ものレポートを作成し、手書きのアイディアノートも添えて持参していらっしゃいました。それをアーティストに突きつけてここぞとばかりに独占的に振舞うので、グループでの話し合いはできません。彼女は実は密かにペットの猫を隠し持ってきていました。猫も気の毒なことです。彼女は猫がいたばかりに部屋を借りることができず、夏の間の数ヶ月はホームレスだったそうです。コンクリートの建物の裏で寝泊りしていた、と言いました。今もあまり状況が良くないのか、あまり清潔を保てていないような匂いもします。
最初のうちはとにかく威張って自分の意見を無礼なまでに押し付けるだけでしたが、アーティストが辛抱強く話を聞いて彼女の意見を絵にし、私も彼女の意見を紙に書き取って要所要所で同意したりしているうちに、やっと誰かに話を聞いてもらえた、という実感がでてきたのか、だいぶ落ち着いて笑顔さえ出るようになってきました。ワークショップが終わってからは私のところにやってきて、「次のときも来るのか」とおっしゃいました。土曜日にも別の場所で同じワークショップを開く予定があるのです。「来ます」と言うと、「良かった、それなら私もまた来る、まだまだ伝え足りないことがある」とおっしゃいました。
正直なところ、私は「参ったなあ」と思ってしまったのです。でも、考えてみればこれはとても特別なことかもしれません。孤独で、おそらくは何らかの精神的な病気を抱え、多分に自業自得とはいえ自分の声を誰にもまともに受け入れてもらえなかった老いたる人が、「やっと誰かに聞いてもらえた、またこの人に聞いてほしい」と強く思っているのです。毎日彼女と顔を合わせることになるわけでもありません。今度の土曜日のほんの30分ほどの時間が彼女にとってとても大きな意味を持つのなら、私はやはり喜んでそのお手伝いをしようと思います。
最後は出来上がったたくさんのイラストを展示します。
他にもたくさんありますが、これくらいにしておきましょう。
参加者がイラストとリストを見て評価をします。こうしてできたイラストは、今後地域のいろんなところを巡回してもっとたくさんの人に見てもらいます。今回はオンラインでもリアルタイムでアップしているそうです。Co=Designの手法はきわめて有効であることが実証されていて、後継者の育成も積極的に行われています。若い参加者たちはハイテクなので、ワークショップもだんだんハイテクになってきています。
なお、理想としてはこのワークショップは開発の一番早い段階で行われるのが最も有効です。開催には多少の費用がかかりますが、これによって住民の意見の傾向が分かれば計画を早い段階で調整できますし、場合によっては中止ということもあります。最悪なのは工事を始めてから座り込みなどが起こることで、そうなったら金銭面だけでは計れない大きなダメージが出ることになります。
今回も、原住民との交渉次第ではこうした努力が水泡に帰す可能性もあります。それでも、できるだけ早い段階で住民参加を促すことは長期的にも得策です。原住民はまた全く利害の異なるグループなので、来月には原住民だけを対象としたワークショップが予定されています。スタンレーさん、今日はボランティアのお招きありがとうございました。土曜日のワークショップも楽しみにしています。