クリスマスパーティー、アウトドアスクール風
2013年 12月 14日
川の土手に出てみましょう。
寒々しい景色を腐った魚の匂いが彩ります。
山ほどの皿洗いがひと段落して、ちょっと休憩と思って散歩に行ったのです。ただそれだけだったのですが、ふと見上げると川岸の木の上に鳥が止まっています。よく見えませんが、ワシなのです。
それも、けっこうあっちこっちにいます。
この木など、もはや混雑していると言っても過言ではありません。
しかし、せっかくふんだんにあるエサを食べているのはこの方お一人。カモメの皆さんに混じってお食事中です。他のワシたちはただじーっと枝に止まっているだけです。寝ているのでしょうか。魚がこれだけたくさんある今こそ、せっせと食いだめしなくてはいけないでしょうに。しっかりしなさい、ワシたちよ。カモメに負けてどうする?実際、ワシは都会でもときたま見かけるのですが、だいたいいつもカモメやカラスに追い立てられています。偉そうな見かけと大きな図体に似合わず、案外喧嘩に弱いのかもしれません。
正直なところ、私はワシにそれほどの興味がありません。ワシが好きな人なら、この環境はうらやましくて仕方がないほど恵まれているのでしょうけれど、強い近視の上に度の合っていない眼鏡をかけているからか、遠くにいる鳥は単なる黒い点にしか見えないのです。なお、こちらは比較対象用に撮影したカラスの写真です。違いが、、、分かりますか?ワシのほうが姿勢がいいように見える、というだけで、ちょっと離れたら全然分かりません。目の前に来て手の平からエサをつついて食べてくれる鴨子ちゃんとか、襲い掛かってくる七面鳥のご主人とか、そういう皆さんのほうが私には親しみが持てるのです。いや、ご主人には親しみというより恐怖のほうが強いですが、本気で戦えば私だって互角に渡り合えるかもしれないライバルのような気持ちがあります。待ってなさい、ご主人。そのうち寝首を掻いてくれよう、と思います。
ところで、今日はアウトドアスクールでクリスマスパーティーが行われました。サンタさんが来るのかな、プレゼントをくれるのかな、と思いきや、なんと、パーティーの主体は川に入って鮭を取るというものでした。重ね重ね、さすがは自然派のアウトドアスクールです。。。
魚釣り用の長靴を履いて川に入り、、、
鮭のように川を遡ります。結構流れが速くて、水の重さと勢いに押し流されそうになります。木がたくさん倒れているのは、何度も洪水が起こって土が流されたからだそうです。あんまりたくさん規則正しく倒れているので、何か理由があってわざと倒したのだろうと思っていたのですが、そうではなかったのです。なお、ここでは木を切ることは原則として禁止されています。材木が必要なときは、こうやってあらかじめ倒れている木を使います。
枝に魚がたくさん引っかかっています。こうして分解されていくのですね。
途中で立ち止まって、先生たちが授業をしてくれました。鮭はこの川の中で生きているので、どんな感じがするものか、水に手を突っ込んでみましょう、というものです。これを2分間やれ、というので、「2分間チャレンジ」と呼ばれています。さーて、やってみましょう、1、2、3、4、、、と数えてみましたが、手が痛くて長く漬けていられません。軟弱者の私はたったの15秒で降参しました。脱落者第一号です。他の人たちはだいたい1分弱続けていましたが、ほんとに2分がんばった人も3人くらいいました。手が芯まで凍ったんじゃないかな。。。
それから陸に上がって小道を歩きました。道沿いに点々と魚が落ちています。
先生が説明をしてくれました。ここは熊のダイニングルームで、魚を水から引っ張り出したのは熊の仕業です。熊はだいたい12月上旬には冬眠するので、今はもう冬眠しているはずですが、エサが足りなかったら起きていて冬もエサを探します。これは熊にとっては死を意味するような出来事で、実際に近年はそういうケースが増えているのだそうです。
とりあえず今のところここらへんでは大丈夫そうですが、熊はこうして捕まえた鮭を頭からむしゃむしゃと食べるわけではありません。こってりとしてカロリーの高いところ、つまり脳みそと内臓だけを食べるのです。それでは熊の食べ残しは誰が食べるのかと聞いてみたら、それはバクテリアや菌類、そしてワシたちのエサになるのだそうです。バクテリアは分かるのですが、ワシがなぜ好き好んで腐乱死体を食べるのかは謎です。どうもほんとにワシはそれが好きらしいのです。考えてみればハゲワシなどはワシの親戚だと思いますが、彼らは死肉ばかりを食べます。やっぱり普通のワシも似たようなところがあるのでしょう。
それから魚を捕まえに行きました。今はコーホーという種類の鮭が上がってくる時期で、これは今は一日に数匹しか罠にはまりません。はしごで罠に降りていきます。
大きな網で魚を追いかけます。
これはできるだけ多くの人が体験できるように、二人がかりの作業です。今回のクリスマスプレゼント、いや、体験学習は、子供たちが実際に何をしているかを体験するのが目的だったので、先生たちが略式ながらスタッフにすべての作業を段階的に体験させてくれました。
捕まえた魚はいったん、、、これは何というのでしょうか、タンクと呼ぶのかな、とにかくこれに放します。雄のタンクと雌のタンクに分かれています。
授業の準備が整ったら、もう一度捕まえます。魚、何度も辛い目に遭わせてごめんね。
その後はどうも何だか心が重くなるのですが、こうやって雌の頭を棒で殴って殺し、腹を裂いて卵を取り出します。さらに雄の精子を取り、こちらは急いで川に戻します。どちらにしても彼らの寿命はあと2~3日で終わるのですけれど。。。さらに、卵に精子をかけて手で混ぜて受精させます。私は混ぜる作業を体験しました。
アウトドアスクールを訪れるのは、ほとんどが小学校3年生と6年生です。3年生にもこれを体験させますが、実際に殺すところを見せるのは刺激が強すぎるので、後ろにある緑色のカバーの向こう側で先生があらかじめ殺してから続きの作業を体験させます。6年生に対しては、目の前で殺してみせます。もちろん、生徒たちはこれで大きな印象を受けるわけですが、単なる殺戮としてトラウマにならないように、卵を受精させて孵化させることで魚の生存率が数十倍に高まることを、あらかじめ時間をかけて説明します。つまり、殺すことで鮭を助けている、というわけで、子供たちは皆それで納得するそうです。それはまあ、数字で言えばそうなのかもしれません。
あとで魚を殺していた先生とお話していたら、彼はチベットに滞在していたころ、仏教徒であるチベット人がヤクという山羊のような動物を食べることに驚いたそうです。植物がほとんど育たない過酷なチベットでは、動物を食べるしかないのだそうです。ヤクは大きいので、一匹殺すとたくさんの人を養うことができます。これはたくさんの鶏を殺すよりも良いことだ、と地元の人は説明したそうで、物の考え方は様々だなと思いました。
先生は、ある生徒のことを話してくれました。彼は原住民の子供で、お父さんが「どんな動物でも決して雌を殺してはならない」と言ったのだそうです。それで彼は先生に「なぜ雌を殺すのか」と尋ねました。先生が「こうやって雌を殺して卵を取ることで子孫が何十倍にも増える」と説明すると子供は納得したそうですが、これもやっぱり自然の摂理に適っているのは子供のお父さんの言葉のほうだろうなと思います。もちろん雄だって殺すことは良くありませんが、狩猟民にとっては種である雄を殺すよりも大地である雌を殺すほうが打撃はずっと大きいことは真実であると思うのです。
受精させた卵は孵化器に入れて孵化させます。引き出しがたくさんありますね。いろんな時期に取れたいろんな魚を多様に組み合わせているのだそうですが、詳しいことはよく分かりませんでした。
今日の作業を写真パネルで見てみましょう。まず魚を捕まえます。
卵と精子を取り出して、、、
受精させます。
特異なクリスマスプレゼントですっかり凍えたあとは、暖炉のある部屋に入ってありきたりのパーティーとなりました。
ジンジャーブレッドハウスに飾りつけをして、、、
立派なおうちのできあがり。これはあらかじめ建築済みのハウスですが、私はかつてこれを一から作ろうとして家屋の崩壊という事態に直面したことがあります。自分が向いていないと思う職業は多々ありますが、建築家や大工さんにも向いていないということをそのときに思い知りました。ときどき思うのですが、もしも地球人類の科学技術の進歩が私にゆだねられていたなら、世界は半永久的に石器時代に留まることでしょう。青銅を発明することは絶対にないだろうし、家屋だって洞窟から進歩しない恐れがあります。地球は平ら、星は点々、コンピューターなどは永遠にエイリアンテクノロジーです。。。
愛しのラッセル君がクリスマスカードをくれました。なんと、自分で描いた絵がカードになっているのです。小学校のPTAの資金集めのために作って販売しているカードだそうです。ラッセル君、7歳にして商業アーティストなのです。
中身はこちら、「いろんなプレゼントありがとう。今年、良い友達でいてくれてありがとう」と書いてあります。あれこれと貢いだ甲斐がありました。絵は天使が二人も描かれています。技術的にはつたない絵ではありますが、彼の心の中ではきっといきいきとした情景が見えているのでしょう。ラッセル君、素敵なカード、本当にありがとう。私もあなたのように自由にいきいきと絵が描けるようになりたいと思うのですよ。
おまけ。アウトドアスクールで使っている醤油は、グルテンアレルギーの子が多いことをかんがみて、グルテン抜きのタイプです。日本にもあるのかな。