カナダのモモレンジャー
2013年 07月 24日
ともあれ、今後私は「お仕事は何ですか?」と聞かれたら「カナダでモモレンジャーをやってます」と答えることにしようと思います。真実であるかと言えばそうでないような気もしますが、嘘ではないと言い張ってもいいくらいの正当性はあるのです。ピンクのミニスカートを履いて「モモレンジャー参上!」とやるのは自粛しようと思いますけれど。
なお、スケジュール表に9時から5時までというホワイトカラーのようなことを書いてありますが、現実は全然違います。建前と本音の世界なのです。森の中には労働基準法は存在せず、「それは新種の熊ですか?」という程度に認識されています。陽が昇れば働き始め、夕日と共に家路を辿る、という世界です。ただ、北国の夏は長いので労働時間がむやみやたらと長くなるのが難点と言えるかもしれません。この調子でいくと冬はスタッフが冬篭りしてしまって開店休業状態になりそうな気がします。
モモレンジャーの今日の仕事はキッチンの大掃除でした。正義の味方として悪と戦いたいのですが、そんな暇はないのです。大きな商業用キッチンを磨き上げるのは一日がかりの大仕事です。疲れますが途中からだんだん熱意が湧いてきて、よし、隅々までぴかぴかにしよう!という気持ちになります。キッチンにはいろんな物がありますが、これは割とあちこちのキッチンで見かける塩です。ユダヤ教の食の戒律コーシャー(またはカシュルート)にのっとって作られた商品です。
ちゃんとダビデの星がついてますね。「過ぎ越しの祭りのためのコーシャー」と書いてあります。過ぎ越しの祭りというのは昔むかしユダヤ人がエジプトから脱出したのを祝うお祭りです。ユダヤ人というのは昔のことをよく覚えている人たちだなと思います。日本人は放射能と一緒に過去を水に流してしまうので、昔の日本を知りたかったら海の水を分析するのが一番なのかもしれません。
掃除のついでに洗濯もします。巨大なテーブルクロスなどを洗うのです。
ほんとは洗濯板のほうが似合うと思うのですが、森の中の洗濯機はハイテクな全自動型です。スイッチを入れると「チャリラリラ~ン♪」という音がします。洗濯や乾燥のサイクルが終わると、曲名は分かりませんが有名なクラシックの音楽が1分近くも流れます。電子音で流れるその音楽は、一生懸命働いた乾燥機が「やった~!」と喜びの歌を歌っているように聞こえます。ところが、私は非情にもそれを途中で遮ってスイッチオフのボタンを押してしまったのでした。「チャララ~ラリラリラ~♪リロリロ、チャラチャ、、、!」乾燥機が無念の涙をこぼすのが目に見えるようです。いくら機械とはいえ、せっかくこんなに頑張って働いたものをこんなに冷たく扱っていいはずはありません。悪かった、、、と思って、次のサイクルからは心行くまで歌わせてあげたのでした。歌い終わってからオフのスイッチを押すと、「チャラララ~ン♪」という満足気な一声と共に機械はしばしの眠りにつきます。
レンジャーなのに近代的なキッチンに一日中こもって働いていますが、天井を見上げるとやっぱり森にいるんだなというのが分かります。今日は全く一人だけで働きました。無言で黙々と掃除を続けていると、心の中にしょうもない考えが次々と浮かんではしばらくの間渦を巻き、やがてどこかへ消えていきます。
今日は昨日よりも早めに切り上げ、建物の横にある池に行ってみました。どういうわけか、濁り湯の温泉のような色をしています。冷たい水なのがかえすがえすも残念です。
池の横には木の歩道が作られています。
歩道の行き止まりから見る池は幻想の鏡を思わせます。昔むかし、原住民の間にはこの池に関する言い伝えなどもあったのかもしれません。
夜は管理人さんが食事に招いてくださいました。畑で取れた野菜とサーモンの料理です。
テーブルの上には鴨の卵が置いてありました。中身を抜いて色を塗ったものだそうです。こんなに大きいんですね。
管理人さんのおうちは本物のログハウスです。中は天井以外特に断熱材もなく、丸太がそのままです。それでも冬も別に寒くないのだそうです。丸太の太さそのものが断熱材の役目を果たしているのでしょう。中には螺旋階段もあって、これぞカナダの夢の家という感じがします。
私のおうちはこちらです。ログハウスではありませんが、森に溶け込む木の小屋です。
まだ明るいうちにと思ってヤギに会いに行きました。草原に誰もいないなと思ったら、私を見つけてぞろぞろと出てきてくれました。愛想の良いヤギたちなのです。
ヤギたちはぺろぺろと指をなめようとします。
先を争うようになでてもらおうとする様子もほんとに可愛いのです。
ヤギたちの騒動を聞きつけて豚の親子も顔を出しました。
豚子ちゃんたち、こんにちは。平べったい鼻先をくっつけて私と仲良くしようとする彼らを見ていると、これがやがて食糧になるのかということを考えずにはいられません。
葉子ちゃんの小屋ステキ。
豚子ちゃん、ほんとそうね、切ないな。私はもう豚肉買わないよ。
豚は母豚も子豚と一緒に寄ってきて鼻先をくっつけてきますよ。牛もそうだけど、やっぱり家畜の哺乳類は人を信頼して仲良くしようとするので、それを思うと食べられません。鶏や魚もそうだけど、哺乳類よりは遠く感じます。